首切り坊主
ある真面目な僧がいた。良く勉強し、仏法や学問にも打ち込み特に優れていた。心栄えも素晴らしく、高潔な若僧だと評判だった。
ある日、枕元に、愛染明王が現れ、こう告げた。
「お前はある土地に住むある家の娘と夫婦になる定め。前世の縁というものからはのがれられない」
僧は嘆いた。彼は日ごろから高潔な志を持っていて修行を積んで立派な僧になりたいと思っていたし努力もしていた。僧の身でありながらご法度を破るなんて考えられなかった。
彼は悩んだ末、解決法を考え出した。その女を殺してしまうのである。そうすれば私は仏の事のみを考える生活に戻り仏のために一生をささげられると考えたのだ。
ある日、変装し、少し遠かったが愛染明王が告げた女の住む土地に出かけていった。
さがすと、本当にその名の屋敷があった。中をうかがうと、五歳くらいの小さな女の子が一人で庭で遊んでいる。屋敷から出てきた下女に尋ねると、この家の一人娘だと答えた。
その日はいったん宿を借りて、次の日、頭をそるかみそりを持って、再び屋敷に行った。見ていると女の子と下女がいたが、しばらくすると下女は家の中に引っ込んだ。
僧は、ほかに人がいないのを確認すると素早く庭に駆け込み娘を捕まえると、口をふさぎ小脇にかかえ、庭の端に植えてあった松の木の下へ走った。
地面の上に押さえつけ、こちらを涙目で見つめる少女のその小さな首をかみそりで思い切り掻き切った。切り口が開き、真っ赤な血が吹き出した。娘は白目をむいて、口が開きっぱなしになった。
僧は頭の中が真っ白になったが、誰にも見られなかったのには安心した。がくがく震えながら、寺に逃げ帰った。
それから、ずっと何年も、僧はいっそう仏の道に打ち込んだ。それは尋常ではなく必死な様子だった。
そして、若くして知られるようにもなり地位も上がっていった。それは、幼子を殺めたことを忘れるため、あるいは前世の縁から完全に逃れるためだったのだろう。
しかし、高潔であろうという張り詰めきった緊張にはひびが入りやすい。もしかしたらそれこそが逆らえない運命なのかも知れない。
信心を深くするにつれ愛染明王のお告げに逆らうことになる矛盾もあった。
そして、ほんの一時の気の迷いだった。
僧は寺に飯炊きに来ていたやつれた貧乏女につい手を出してしまう。
ほかに誰もいないのを見計らって女を抱きすくめた。乳を揉もうと着物をはだけると、はたして女の首には大きな古い傷跡があった。
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